講評
本日は、選考委員の皆様のご協力により、すべての議事を滞りなく終了することができました。皆様のご協力に心から感謝申し上げます。
これからの活躍が期待される学生たちを支援する古泉財団奨学金制度の趣旨が各大学に理解され、浸透してきたという感触を得ております。
これまでに採用された奨学生の生活状況報告書を読ませていただきましたが、どの学生も明確な目的意識を持って努力している様子が伝わってきます。
奨学生の中には、「にいがた観光親善大使」に選ばれ、すでに社会的に活躍している方もおられます。また、海外大学への留学や大学院への進学を目指す志の高い学生も多くおられることが分かり、大変心強く思った次第であります。
全体的に奨学生の学力や意識の向上が認められ、このことに対しては一定の評価をしてよろしいと思います。その上で、これから応募される皆さんには、ぜひ願書に自分の長所を積極的にアピールする力を養っていただきたいと思います。また、指導教員の先生方には推薦書で学生の優れた点をもっと具体的に沢山書いていただきたいと願っております。
さて、今年度の最大の話題は何といっても、昨年12月に政府がまとめた「こども未来戦略」であります。これによりますと、2025年度から、こどもが3人以上の世帯の授業料を免除するという大胆な政策が打ち出されました。このところの国の動きを注視していますが、今年4月から、多子世帯と理工系学生を対象とした高等教育の新しい修学支援制度においては、年収要件が600万円までと緩和されました。今回の所得制限のない多子世帯への支援措置は、この政策の延長線上にあるように思われます。
しかしながら、この政策の効果を考えてみれば、そもそも日本ではすでに多子世帯が少なくなっており、この政策を受けて3人目の子を考える世帯があったとしても、その影響が現れるのは20年も先のこととなります。しかも、ここでいう多子世帯の定義は、「扶養している子が3人の場合」を指していて、一番上の子が卒業して独立すると扶養から外れますので、下の2人の子は対象外となってしまいます。
そもそも「無償化」といっても、私立大学の場合は70万円が上限とされており、理工系学部の授業料の半分程度でしかなく、この政策の効果はきわめて限定的と言わざるを得ません。
さらに大きな問題は、文部科学省が首都圏の情報系・理工系学部の増設を認めたことです。この動きが本格化すれば、首都圏で新しい学部や学科の設置が相次ぎ、地方大学に対して大きな影響を与えることは確実であります。
このことに関連して昨年9月5日の新聞に、2023年度の新潟県内私立大学の定員充足率についての記事が掲載されました。この記事によれば、県内私立大学の定員充足率は92.13%であり、過去5年間で最低を記録しました。新潟県の大学進学率は、短大を含めて年々上昇していますが、全員が県内の大学に進学するわけではありません。首都圏の大学にこれまで以上に入り易くなることが問題なのであり、この点について、国の審議会などにおいてもっと地方の現状を考慮に入れた議論が行われるよう期待しております。
最後になりましたが、本年度におきましても多くの候補者をご推薦いただいた大学関係者の方々および応募していただいた学生の皆さんに心から感謝申し上げます。また、今年卒業された奨学生の皆さんには、社会の様々な分野で活躍し、社会の発展に積極的に貢献されますよう心から期待しております。さらに、このたび採用された奨学生の皆さんには、それぞれの目標の実現に向けて不断の努力をお願い申し上げまして、本日の講評といたします。
2024年6月4日
選考委員長 長谷川 彰